Webサイトを運営する際、ユーザの利便性向上や正確な情報収集を行うために欠かせない技術の一つがCookieです。
Webサイトで使用されているCookieにはさまざま種類があり、その多くでは、Webサイトとユーザの双方にメリットをもたらす機能を提供しています。ただし、近年ではプライバシー保護の観点から、Cookieの利用制限や利用に際してのルールが強化されています。
Cookieに関連する法規制は日本国内にとどまらず、EUのGDPRやアメリカのCCPAなど、海外の法律も多く、その数は年々増加しています。Webサイト運営者はCookieと法令の関係を正しく理解することが大切です。
本記事では、Cookieの基礎知識と関連するプライバシー法をわかりやすく解説します。
Webサイトの運営者なら知っておきたいCookieの知識
Cookieは、Webサイト運営において重要な役割を果たす技術であり、ユーザの利便性向上やデータ分析に活用されています。
Cookieとは?
Cookieは、Webサイトがユーザのデバイスに保存する小さなデータファイルで、ユーザに関する様々な情報を保持しています。この情報をWebサイトが参照することで、ユーザの利便性向上やデータ分析に活用できます。
Cookieが保持する情報の代表例
Cookieには様々なデータを保存できますが、以下が代表的なものと言えます。
・ログインセッション情報
ユーザがログインした状態を維持するための情報。
・デバイス情報
使用しているデバイスの種類や設定に関する情報。
・IPアドレス
ユーザの接続元を示すIPアドレス。
・ブラウザ情報
使用しているブラウザの種類やバージョン。
・アクセス元の地域
ユーザの地理的位置に関する情報。
・ページ遷移の履歴
ユーザがどのページからどのページへ移動したかに関する情報。
・訪問日時や回数
Webサイトを訪れた日時や回数。
このような情報を読み取ることで、ユーザの過去の行動や趣味嗜好に基づいてコンテンツの表示内容や順序をカスタマイズしたり、よりパーソナライズされた顧客体験を提供したりすることが可能になります。
Cookieの種類
Cookieには、発行元や利用目的によっていくつかの種類があります。ここでは「発行元ドメインによる分類」と「発行元デバイスによる分類」の2つの観点から説明します。
・発行元ドメインによる分類
1-1. ファーストパーティCookie
訪問しているWebサイトのドメインから発行されるCookieです。ユーザのログイン状態維持や、サイトの言語設定を保存するなど、基本的なサイト機能を提供するために使われることが多いです。
1-2. サードパーティCookie
訪問しているWebサイトとは異なるドメインから発行されるCookieです。広告やマーケティングの目的で使われることが多く、行動追跡などに利用されますが、現在ではプライバシー保護の観点から主要ブラウザにおいてのサポートは、制限または廃止されています。
サードパーティークッキーについては下記の記事でも詳しく紹介しています。ご参考ください。
【関連記事】サードパーティクッキーとは?その仕組みと規制、企業に求められる対応を徹底解説
・発行元デバイスによる分類
2-1. サーバサイドCookie
Webサーバ側で発行されるCookieです。セッション管理や認証に使われるなど、Webサイトの重要な機能を支えています。
2-2. クライアントサイドCookie
ユーザのブラウザ側で主にJavascriptによって発行されるCookieです。多くの場合、ユーザの行動解析やマーケティングのために使用され、ユーザのトラッキングを主な目的としています。サードパーティCookieと同様に、プライバシー保護の観点から、最近のブラウザでは利用が制限されることが増えています。
これらのCookieは、それぞれの特性や用途に応じて使い分けられ、Webサイトの機能向上やユーザ体験の改善に寄与しています。
ただし、サードパーティCookieとクライアントサイドCookieについては、ユーザの同意のないトラッキング行為が利用者のプライバシー保護の観点から、近年では問題視されるようになっており、利用が制限される傾向にあります。
Cookieのメリット:Webサイト運営側
Cookieを活用することで、ユーザの行動データを収集し、データに基づいたより効果的なマーケティング戦略を立てることができます。
・データ分析
サイト訪問者の動向や行動パターンを分析し、サイトのコンテンツやパフォーマンスの改善点を見つけることができます。
・ユーザ体験向上
ユーザの好みや行動履歴に基づいたパーソナライズされたコンテンツを提供し、ユーザ満足度を高めることが可能です。
Cookieのメリット:ユーザ側
・データの自動入力
ユーザが以前に入力した情報を記憶しておくことで、次回の入力作業を省略できます。
・ログイン状態の維持
一度ログインした状態を保持することで、毎回ログイン情報を入力する手間を省くことができます。
・サイト設定の保存
ユーザがカスタマイズしたサイトの設定を記憶することで、次回訪問時に同じ設定で利用することができます。
CookieによりWebサイトとユーザが情報を共有できるようになり、より効率的なWebサイト運営が可能になります。Cookieは、ユーザ体験を向上させるための便利なツールである一方で、その利用にあたっては、利用者のプライバシーへの十分な配慮が必要です。
Cookieに関連するプライバシー法
CookieはWebサイトを運営・利用する上で重要な役割を果たしています。しかし、ユーザが高いプライバシー意識を持っている現代においては、Cookieは慎重に扱うことが求められます。
世界各国に広まるプライバシー保護に関する法律
プライバシー保護に関連する法令は世界各国で整備されており、事業者としては、これらを遵守しなければなりません。ここで代表的なプライバシー関連法を確認しましょう。
EU一般データ保護規則(GDPR)
GDPRは、EU域内での個人データの保護を目的とし、Cookieの使用にも厳格な規制を設けています。EU圏のユーザのプライバシーを保護することを目的としていますが、GDPRの適用範囲はEU圏内にとどまりません。企業がEU圏外でEU圏に居住するユーザを対象にサービスを提供する場合にも適用されます。
また、GDPRに違反した場合の高額な制裁金も特徴となっており、近年のプライバシー関連法の厳罰化の傾向を方向づけました。Webサイト運営者にとっては、大きな法的リスクとなり得る法令と言えるでしょう。
GDPRの制裁金について、こちらの記事ではランキング形式で紹介しています。
【関連記事】GDPRの制裁金をランキング形式で紹介!法令を遵守したデータ分析方法とは?
個人情報保護法
個人の権利や利益の保護を目的とした日本国内の法律です。急速に進むデジタル化や世の中の課題に合わせ、附則第10条の規定によって、「施行後3年ごとに見直す」とされてます。次回の改正は2025年春に予定されています。
Cookie等のデータ利用に関する規制も盛り込まれており、個人情報の収集・利用・管理において、本人の同意取得や適切な情報管理が求められています。データ漏洩時の報告義務や、個人の請求権の拡大など、事業者の責任が増大する傾向にあり、違反時の罰則も厳罰化の傾向が進んでいます。
個人情報保護法とCookieについて、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】個人情報保護法のCookie規制とは?法令順守とWebマーケティングを考える
電気通信事業法
電気通信事業者に対して、個人情報の適切な取扱いと通信の秘密の保護を求めています。事業者の規模やサービス内容・範囲によって登録や届出を義務付けており、事業者が正確に理解するべき法律のひとつです。
個人情報の適切な管理、通信の秘密の保護、データの適正な取扱いなどを事業者に求めており、2023年6月に施行された改正法では、利用者のプライバシー保護に関する規制(外部送信規律)も盛り込まれました。
登録・届出の不履行や通信の秘密の侵害は重大な法令違反となります。また、登録・届出が不要ながらも部分的に同法が適用される「第三号事業者」の区分が存在するため、Webサイト運営者は、自社の事業やサービスが同法の対象となるかを確認し、法令遵守のための適切な対応が求められます。
こちらの記事で簡易的にチェックすることができます。
【関連記事】改正電気通信事業法の対象となるサービスとは?ビジネスの類型ごとに解説
世界各国のプライバシー保護関連法の施行状況
世界各国の施行状況
GDPRをフレームワークとした法律の制定、もしくはプライバシー関連の既存法の法改正の動きは、広がりを見せており、その数は年々増加しています。
現在、EU(GDPR)、英国(UK GDPR)、米国カリフォルニア州(CCPA)、日本、ブラジル、シンガポール、イスラエル、中国、インド、カナダ、メキシコ、ロシア他、30を超える地域でプライバシー保護に関連する法律が施行されています。
ただし、米国におけるプライバシー保護に関する法律は、州レベルで行われています。連邦法の成立を目指して、2022年に「米国データプライバシー保護法(ADPPA)」が議会で審議されましたが、2024年12月時点でまだ成立には至っていません。
Cookieの取扱い
世界各国のプライバシー保護の関連法律の間でも違いが見られます。GDPRのコンセプトやフレームワークを用いて、各国の事情に合わせた規定を盛り込んだ構成としている国々では、Cookieなどに代表される個人の識別が可能なデータ、いわゆる「個人データ」については、保護対象や規制対象とする考え方をしているようです。
自社の事業やサービスが展開している国や地域に合わせて、どの法令が対象となるのか、保護対象もしくは規制対象とされているデータは何か、遵守にあたり必要なプロセスやタスク、ツールをどうするか、など専門家に相談しながら、慎重に検討を進めることが大切です。
同意取得ツールとCookie
「個人データ」の保護規制への対策のひとつとして、Cookieの利用目的やCookieの種類を明示し、利用者の同意を管理する「同意取得ツール」の実装が挙げられます。ただし、同意取得ツールの実装は、Webサイトにおける訪問者の離脱や直帰を大幅に増加させる要因にもなります。
同意取得ツールの実装ありきではなく、自社の事業やサービスの対象となる法律を見定め、その規定によって同意取得ツールの実装が必須なのか、そうではないのか、時には専門家に相談しながら、リスクを踏まえて検討を進めましょう。
同意取得ツールで表示されるCookieの種類
同意取得ツールを実装する場合、Cookieは、利用者の同意を得ることで、はじめて収集が可能になり、利用することができます。利用者が同意の意思表示をしない状態では、Cookieが発行されない、あるいはデータ収集用のタグが発火しないという動作が一般的になってきています。
最近の同意取得ツールでは、Cookieを種類ごとに分類して表示し、種類ごとに同意、もしくは拒否を選択できる形式となっているものが主流となってきています。
ここで、Cookieの種類を機能別に分類して、整理してみましょう。
必須Cookie
Webサイトの動作上、必須な機能や基本的な機能を提供するCookieです。セッション管理やログイン管理などが含まれます。必須Cookieは、利用者が直接訪問しているWebサイトから発行される「ファーストパーティクッキー」です。
機能Cookie
利用者の設定を記憶し、Webサイトの使いやすさを向上させるために使用するCookieです。例えば、言語設定や表示設定(テーマやレイアウト等)の保存、ログイン状態の維持やショッピングカートの状態の保持などがあります。機能性Cookieは、利用者が直接訪問しているWebサイトから発行される「ファーストパーティクッキー」です。
パフォーマンスCookie
Webサイトの利用状況やパフォーマンスを分析し、改善するために使用されるCookieです。これには、訪問者数やページの閲覧時間、訪問の直接のきっかけとなった外部サイト(もしくは広告)、エラーメッセージの種類、ページの表示速度などのデータ収集が含まれます。
パフォーマンスCookieは、アクセス解析や性能分析のツールから発行されているCookieであり、利用者が直接訪問しているWebサイトから発行される「ファーストパーティクッキー」ではありません。パフォーマンスCookieの多くは、Webサイトにデータ計測用のタグを添付し、パフォーマンス関連の情報を収集する「クライアントサイドCookie」であり、トラッキングや計測を目的としたCookieである点にも注意が必要です。
ターゲティングCookie
利用者のWebサイトの閲覧行動を追跡し、興味関心に基づき、関連性の高い広告や利用者の反響を得やすい広告を表示するためのCookieです。
これらのCookieの多くは、複数のWebサイトを横断して利用者を追跡しています。利用者が訪れたWebサイトやクリックした広告やリンクなどの情報を収集し、蓄積し、分析し、関連性の高い広告を表示することで広告主にとって高い費用対効果を実現しています。
代表的な広告がリターゲティング広告で、別のサイトでクリックした商品や同じカテゴリの商品の広告が、別のサイトを訪問している際も、延々と表示され続けることで、良くも悪くも多くの利用者に広く認知されるようになりました。
ターゲティングCookieは、第三者から発行される「サードパーティクッキー」であるケースが多く、複数のWebサイトを横断して利用者の行動を追跡しています。追跡を望まない場合は、しっかりと拒否しましょう。
まとめ
プライバシー保護の関連法により、ユーザに関連する情報の収集や取扱いには厳しいルールが設けられています。収集したデータを適切に管理することは、法的な義務であり、事業者としての責務とも言えるでしょう。
同時に利用者の立場としては、Cookie同意ツールに表示されている内容がよく分からないので、「とりあえず同意」や「分からないので全部拒否」などの選択方法ではなく、Webサイトの利用にあたって、自身に関連するデータを事業者に対して、どこまで渡すことに同意できるのか、当事者意識をしっかり持つよう心がけることも大切です。
Cookieの活用と利用者のプライバシー保護の両立
プライバシー保護の観点から、ユーザに関連する情報収集においては、様々な制約があることを見てきました。ユーザの情報をまずは適法に、そして効率的にかつ効果的に収集するためには、どのような点に配慮すればよいでしょうか?
まず、Webサイトから収集する情報は、必要最小限に留めることが大切です。明確な目的を設定し、それに必要な情報を集めることを前提とすることで、ユーザへの分かりやすい説明や同意の取得、法令遵守の取組みのハードルを下げることに繋がります。
Webサイトのタイプ(情報発信や商品やサービスの販売など)やデータ活用の目的などによっても収集するデータの種類に差異が出ます。マーケッターの立場としては、より広い範囲や用途で同意を取っておきたいところではありますが、「データ主体」は利用者本人という基本に立ち返って、利用目的を明確にし、自社の活動に必要な情報やデータを特定し、整理しましょう。
RTmetricsは、すでに稼働しているWebサイトでも導入しやすいアクセス解析ツールです。サードパーティクッキーやクライアントサイドクッキーを使用せず、サーバサイドクッキーとファーストパーティクッキーを活用し、精度の高いアクセス解析データを取得できます。
法的なリスクを回避しながら、利用者の情報を適法に収集・取得し、よりよい顧客体験に生かしたいとお考えの方はぜひご検討ください。