2023年6月に改正電気通信事業法が施行され、ユーザの同意取得やオプトアウトの仕組みの実装などの対応が、多くのWebサイトにおいて必要となりました。その中でも、Web広告の配信に関わるビジネスにとって大きな影響を与えた規制が、Cookie規制とも呼ばれる外部送信規律ではないでしょうか。

 

従来の広告配信手法が大きな制限を受けた改正電気通信事業法から1年以上が経過した現在においても、対応ができていない企業、そもそも自社が対象になるとは考えていない企業の担当者もいらっしゃるかもしれません。

 

ユーザのプライバシー保護に対する関心が高まり、プライバシー関連法の整備も進む中、適切なWeb広告とは、今後どのようなものになっていくのでしょうか。

この記事では、改正電気通信事業法と広告の関係や、これからの広告配信について解説します。

改正電気通信事業法の影響を受ける広告配信の手法と関連技術

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Web上で行われる広告配信は、Webサイトに特定の広告を表示するだけではありません。ユーザの情報を分析し、より適切な内容を表示するために様々な仕組みが存在しています。

リターゲティング広告

ユーザのWeb閲覧履歴や行動データを分析し、そのユーザの興味・関心にパーソナライズした内容の広告を表示します。広告のクリック率やコンバージョン率の向上を期待でき、多くの広告配信で活用されている仕組みと言えるでしょう。やみくもに広告を表示するよりも成果をあげやすく、戦略的に広告配信をすることができます。

クロスサイトトラッキング

複数のWebサイトを横断してユーザの行動を追跡する技術です。これにより、ユーザのオンライン行動を詳細に分析し、より正確にパーソナライズされた広告を提供できます。広告の成果を高めやすくなる一方で、プライバシー保護の観点から規制を受けている現状もあります。

広告のクリック率やコンバージョン率の測定

広告の成果を評価する際は、クリック率やコンバージョン率を分析し、どの程度の効果があったのか、コストパフォーマンスは想定通りかなどをチェックします。広告を直接クリックした場合のほかに、URLを直接指定してのアクセスなどイレギュラーなルートでも測定できることが望ましく、高精度な分析をすることで広告効果の底上げや改善に繋がります。

 

ユーザの興味や関心に合わせて広告の表示内容をコントロールし、コンバージョン率の向上、効率の最大化を狙って配信することが主流と言えます。

改正電気通信事業法によるCookie規制

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広告配信に大きな影響を与える規制が、改正電気通信事業法で新設された「外部送信規律」で、「Cookie規制」とも呼ばれています。ただ、現在は、従来の広告配信の前提ともなっていた3rd party cookieが実質的に廃止状態となっており、高精度なパーソナライズや正確な広告の効果測定が困難になってきています。

 

ここではCookieの基礎知識と、Cookie規制が広告配信にどのような影響を与えているのかを見ていきます。

3rd party cookieとは

広告の配信ではユーザの興味や関心を分析し、それにマッチする内容を表示しています。そのユーザの興味や関心を高精度に収集する仕組みの根幹となっていたのが3rd party cookieです。

 

cookieは、ユーザのブラウザに保存されるデータの保存領域です。ここにはユーザの閲覧履歴やトラッキング情報が保存されています。保存された情報を読み取り、現在アクセスしているユーザは過去にどのようなWebサイトを閲覧したのか、どのような検索を行ったのかを知ることができます。

 

3rd party cookieを使うと、ユーザが閲覧した自社のWebサイト以外のドメインの閲覧状況も記録することができ、そのユーザの一貫した行動や情報を簡単に得ることができましたが、現在はほとんどの主要ブラウザが3rd party cookieを拒否するようになっており、実質的に廃止されている状態です。

【関連記事】:サードパーティクッキーとは?仕組みと規制強化の背景を徹底解説

1st party cookieとは

ユーザの行動や閲覧履歴を記録することができる点は3rd party cookieと同様ですが、1st party cookieはユーザがアクセスしたWebサイトのドメインからしか読み書きされない特性があります。

 

これによりユーザの閲覧履歴などが第三者からは参照されず、また自社サイト以外でのユーザの行動や閲覧履歴と自社サイトのデータを紐付けすることが困難になります。3rd party cookieと比較して、結果的にユーザのプライバシー保護に繋がることがメリットです。

 

しかし、広告配信の観点ではユーザの情報収集・分析が限定的となるため、パーソナライズの精度が低下するケースもあります。Cookie規制を受け、広告配信も変化が求められています。

新たなエコシステムの構築に向けて各社の取組みが続いている最中と言えるでしょう。

 

こちらの記事でcookie規制の背景やcookieの解説をご覧頂けます。併せてご覧ください。

【関連記事】:Cookieはなぜ規制されるのか?企業が取るべき対応・対策を解説!

改正電気通信事業法を受けて、広告配信はどう変わるか

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Cookie規制の強化により、Cookieに限らず、ファーストパーティデータの重要性がますます高まっています。サードパーティデータである3rd Party Cookieは、利用者が訪問していないサイトからも読み書きされるため、利用者に関するデータが利用者が知らないうちに外部の事業者間で共有されていることが、プライバシーの面で課題となっています。

 

では、利用者が訪問したサイトから発行されるCookie(いわゆる1st party Cookie)を活用して、リターゲティングなどの広告配信の精度をなんとか担保、あるいは向上させる方法は本当にないのでしょうか?

広告配信におけるAIの活用

ここ数年、急激に進化しているAIのテクノロジーは、広告の分野においても急速に活用が進んでいます。代表的な利用目的としては、以下が挙げられます。

 

・クリエイティブの作成時間の短縮

・リターゲティング精度の向上

・ターゲティングモデルの更新頻度の短縮

・もしくはダイナミックターゲティングによる(ほぼ)リアルタイム更新

 

AI活用においても、利用者のプライバシーや個人情報の保護が大前提となりますが、今後、これらの個人データをいかに確実に保護し、利用者のプライバシーを守りながら、AIの業務活用を進めるのか、AIの普及とともに社会的に大きな関心を集めています。

AIに関する法案

AIを規制する法案についても、GDPRと同様、やはりEUが先行していますが、個人データを保護する技術的な対策として、現時点では以下の3つが代表的なものです。

 

①データ匿名化

②差分プライバシー

③フェデレーテッドラーニング(連合学習)

 

3rd party cookieが廃止状態の現在、その解決策のひとつとして、自サイトで発行されるファーストパーティCookieを広告のターゲティングの精度向上に活用する技術が注目を集めています。機械学習の一種、「フェデレーテッドラーニング(連合学習)」です。

【参考】:連合学習とはなにか?(株式会社日本総合研究所 先端技術ラボ)

 

3rd party cookieを使った従来の方式では、利用者の各サイトをまたがった利用履歴を記録したcookieデータそのものを収集し、Cookieデータを一か所に集めてから、学習モデルを構築し、ターゲティング配信に使用していました。

 

フェデレーテッドラーニングの技術を使うと、個々のサイトのCookieデータそのものは共有せずに、各端末やサイトの単位で機械学習した結果のパラメータだけを全体で共有し、ターゲティング配信に活用することができるようになります。

 

フェデレーテッドラーニングでは、データそのものは共有しないため、利用者のプライバシー、データのセキュリティ、そして利用者が許諾した利用範囲内のデータ利用、プライバシーガバナンスに従ったデータ活用とAI技術の実装の両立を実現できると期待されています。

 

AIはデータ収集と学習の段階、モデルの生成と活用の段階にプロセスを分けることができますが、Cookie規制は、いわばデータを学習させる前段階のデータ収集のプロセスをターゲットにした規制と位置づけられます。

 

データ収集と学習の段階、モデルの生成と活用の段階、その両方のプロセスにおいて利用者のプライバシー保護が求められていることには変わりなく、利用者に取得するデータの内容と利用目的を開示し、利用者から利用について承諾を得ることが大前提となります。

 

例えば、利用者が知らないうちに利用者のデータが端末内部でフェデレーテッドラーニングによって学習に使われていて、結果のパラメータが利用者が知らないうちに勝手に外部に送信され、各事業者で共有されている、といった実装は倫理的にも法的にも許されません。

 

利用者のプライバシー保護とデータの活用、広告配信へのAIの活用については、急速に技術開発が進んでいます。AI活用とデータプライバシーは両立すべき企業課題、社会課題ですが、プライバシーバイデザイン、設計の段階からプライバシーを保護することを前提としておく考え方がひとつのポイントとなると言えるでしょう。

 

プライバシーバイデザインについては、こちらの記事の後半で詳しく触れています。

併せてご覧ください。

【関連記事】:Google analyticsは個人情報保護法を遵守している?リスクや対処を解説

改正電気通信事業法を遵守しながら高精度な広告配信を実現する

改正電気通信事業法によって、オンラインサービスの利用におけるユーザのプライバシー保護は一層強化され、時代やマーケットの変化に合った法的な改正や整備が進んでいることで、ユーザは安心してWebやデジタルサービスを利用することができます。

 

改正電気通信事業法の他にも、国内では個人情報保護法、国際法ではGDPRなど、プライバシー保護の関連法も強化・整備が進んでおり、デジタル広告においては、よりプライバシーに配慮した配信手法の開発や普及が求められていると言えるでしょう。

 

RTmetricsは、各プライバシー法を考慮したデータ収集を標準機能で実装できるアクセス解析ツールです。3rd party cookieに依存せず、ユーザのプライバシーに配慮しつつ、高精度なアクセス解析を実現できます。

 

既存のWebサイトへの影響を抑えて導入でき、自サイト外にデータを送信しない実装が可能なことから、電気通信事業法の外部送信規律にも抵触しません。法的リスクの回避とアクセス解析の精度向上の両立を目指すことができます。

 

ファーストパーティデータの広告配信への活用の重要性が増している現在、効果的なデータ収集ツールとしてぜひご検討ください。